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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)11420号 判決

原告 東海土地建物株式会社

右代表者代表取締役 福井豊子

右訴訟代理人弁護士 野島潤一

被告 東京霞ヶ関信用組合

右代表者代表理事 名村洋一郎

右訴訟代理人弁護士 原長一

同 桑原収

同 小山晴樹

同 森本紘章

同 渡辺実

同 堀内幸夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  東京地方裁判所が同庁昭和五四年(ケ)第一三二五号不動産任意競売事件につき作成した昭和五六年九月二八日付別紙売却代金交付計算書のうち被告(申立債権者)に対する元金についての交付額一八六三万七六〇三円を九五万八九八八円に、原告に対する〇円の交付額を元金につき一〇三二万四九五四円、利息につき四一万六五六〇円、損害金につき六九三万七一〇一円にそれぞれ変更する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  東京地方裁判所は、被告の申立により、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき昭和五四年(ケ)第一三二五号不動産任意競売事件(以下「本件競売事件」という。)として任意競売手続を開始し、その後本件土地を競売した結果、昭和五六年九月二八日その売却代金三〇〇〇万円につき別紙売却代金交付計算書(以下「本件計算書」という。)を作成した。

2  しかしながら、本件計算書には、次に述べるように原告及び被告に対する交付額を誤った過誤があるので、請求の趣旨1のとおり変更されるべきである。

(一) 原告は、訴外株式会社ジル三協(以下「ジル三協」という。)との間で、昭和五四年八月一五日、当時ジル三協が所有していた本件土地につき原告を根抵当権者、ジル三協を根抵当権設定者兼債務者、極度額を二〇〇〇万円、被担保債権の範囲を金銭消費貸借取引、手形債権、小切手債権とする根抵当権設定契約(以下「本件根抵当権(一)」という。)を締結し、同日、その旨の仮登記を経由した。

(二) 原告は、ジル三協に対し、同年九月一七日、弁済期を同年一二月五日、利息を日歩四銭一厘、遅延損害金を日歩八銭二厘とする約定で一二七六万円を貸し渡した。

(三) そして、原告は、本件競売事件において、本件根抵当権(一)の被担保債権として元金一二七六万円及びこれに対する昭和五四年九月一七日から同年一二月五日まで日歩四銭一厘の割合による利息四一万六五六〇円並びに右元金に対する同月六日から昭和五六年九月二八日まで日歩八銭二厘の割合による遅延損害金六九三万七一〇一円の合計二〇一一万三六六一円の債権の届出をした。

(四) また、被告が本件競売事件において届け出た債権は、本件土地につきジル三協との間で昭和五一年一一月一日に設定した極度額三〇〇〇万円の根抵当権(以下「本件根抵当権(二)」という。)の被担保債権として、昭和五四年一二月二四日の本件競売の申立によって元本が確定した貸金残元金二八〇五万円及びこれに対する昭和五四年八月二〇日から昭和五六年九月二八日まで年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金一〇七七万九二五〇円の合計三八八二万九二五〇円である。

(五) しかるに、訴外東京信用保証協会(以下「保証協会」という。)は、被告に対し、本件競売申立後の昭和五五年二月七日、被告ジル三協に対する本件根抵当権(二)の被担保債権のうち一七六七万八六一五円を代位弁済した。その結果、本件根抵当権(二)は右金額の限度で保証協会に代位により一部移転し、同協会は同月八日その旨の根抵当権一部移転登記を経由した。したがって、被告は、本件根抵当権(二)の極度額三〇〇〇万円から代位弁済額を控除した残額一二三二万一三八五円の限度で優先弁済権を有するにすぎない。

(六) しかも、保証協会が代位によって取得したジル三協に対する一七六七万八六一五円の求償債権は昭和五六年九月二八日の本件売却代金交付期日までに消滅し、本件根抵当権(二)のうち保証協会に一部移転した根抵当権は附従性の原則により消滅したから、一七六七万八六一五円は後順位根抵当権者たる原告に交付されるべきものである。

3  原告は、本件競売事件の売却代金交付期日において、本件計算書中の被告に対する交付額二九四一万六八五三円のうち一七六七万八六一五円について異議を申し立てたが、債権者たる被告が右異議を承認しなかったため、右異議は完結しなかった。

よって、原告は、本件計算書中の原告及び被告に対する各交付額部分を請求の趣旨1記載のとおりに変更することを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の冒頭の主張は争う。

同(一)、(二)の事実は知らない。

同(三)、(四)の事実は認める。

同(五)の事実のうち、保証協会が被告に代位弁済したこと、同協会が代位により本件根抵当権(二)の一部移転を受け、その旨の登記を経由したことは認めるが、その余の主張は争う。本件根抵当権(二)の元本確定時における被告のジル三協に対する被担保債権の残元本は四五四一万円であり、保証協会の代位弁済は被担保債権の一部の弁済にすぎない。

同(六)の事実のうち、保証協会が代位により取得した債権が原告主張の時期までに消滅したことは認めるが、その余の主張は争う。

3  同3の事実は認める。

三  抗弁

1  被告は、ジル三協との間で、昭和五一年一一月一日、本件土地につき、被告を根抵当権者、ジル三協を根抵当権設定者兼債務者、極度額を三〇〇〇万円、被担保債権の範囲を信用組合取引、手形債権、小切手債権とする本件根抵当権(二)の設定契約を締結し、本件根抵当権(一)の仮登記より前の同月一八日、その旨の登記を経由した。

2  被告は、ジル三協に対し、本件根抵当権(二)の被担保債権として、昭和五一年一一月一日、次のとおりの約定のもとに三五〇〇万円を貸し渡した(以下「本件貸金(一)」という。)。

(一) 弁済方法 昭和五一年一一月から昭和五六年一〇月まで毎月末日限り二〇万円ずつ、同年一一月から昭和六一年一〇月まで毎月末日限り三〇万円ずつ、同年一一月から昭和六二年八月まで毎月末日限り四五万円ずつ、同年九月末日限り五〇万円

(二) 利息 年一〇・八五パーセント

(三) 遅延損害金 年一八・二五パーセント

(四) 期限の利益喪失 ジル三協が右分割金の支払を一回でも怠ったときは当然に期限の利益を失う。更に、昭和五三年三月一五日、次のとおりの約定のもとに二〇〇〇万円を貸し渡した(以下「本件貸金(二)」という。)。

(一) 弁済方法 昭和五三年一〇月から昭和五六年二月まで毎月末日限り六六万円ずつ、同年三月一四日限り八六万円

(二) 利息 年七・七パーセント

(三) 遅延損害金 年一八・二五パーセント

(四) 期限の利益喪失 ジル三協が右分割金の支払を一回でも怠ったときは当然に期限の利益を失う。

3  ジル三協は、本件貸金(一)につき、右2の(四)の約定に基づき、遅くとも昭和五四年八月一九日までに期限の利益を喪失した。

4  そして、被告は、本件競売事件の売却代金交付期日の時点で、届出債権として、右貸金(一)の残元本二八〇五万円及びこれに対する昭和五四年八月二〇日から昭和五六年九月二八日まで年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金一〇七七万九二五〇円の本件根抵当権(二)の極度額を超える合計三八八二万九二五〇円の債権を有していた。

5  しかして、被告と保証協会は同協会の一部弁済による代位によって本件根抵当権(二)を準共有するに至ったが、被告は売却代金交付期日においてもなお本件貸金(一)につき極度額三〇〇〇万円を超える合計三八八二万九二五〇円の債権を有していたのであり、かつ、被告と保証協会は、昭和五五年二月七日、本件根抵当権(二)の一部移転に際し、右根抵当権の実行による代金の交付がある場合、被告の債権が保証協会の債権に優先する旨の特約を締結したのであるから、被告は、一部弁済者たる保証協会に優先して極度額全額の範囲内で弁済金の交付を受けることができるのである。

また、売却代金交付期日までに保証協会のジル三協に対する求償債権は消滅しているので、共有者の一方の持分が消滅した場合には右持分は他の共有者に当然復帰すべきものと解されている共有の一般理論によって保証協会の準共有持分は被告に当然に復帰することになるので、被告は、本件根抵当権(二)の全部につき優先権を行使しうるものである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実は知らない。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実は知らない。

5  同5の主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  東京地方裁判所が被告の申立により本件土地につき任意競売手続を開始し(同庁昭和五四年(ケ)第一三二五号事件)、右土地を競売の結果、昭和五六年九月二八日その売却代金三〇〇〇万円につき本件計算書を作成した事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件計算書に原告が主張するような過誤があるかどうかについて判断する。

1  《証拠省略》によれば、原告はジル三協との間で、昭和五四年八月一五日、当時ジル三協が所有していた本件土地につき原告を根抵当権者、ジル三協を根抵当権設定者兼債務者、極度額を二〇〇〇万円とする本件根抵当権(一)を設定して、同日、その旨の仮登記を経由したこと、次いで、原告はジル三協に対し、同年九月一七日、弁済期を同年一二月五日、利息を日歩四銭一厘、遅延損害金を日歩八銭二厘と約して一二七六万円を貸し渡したことを認めることができる。

また、原告は、本件競売事件において、本件根抵当権(一)の被担保債権として元金一二七六万円及びこれに対する昭和五四年九月一七日から同年一二月五日まで日歩四銭一厘の割合による利息四一万六五六〇円並びに右元金に対する同月六日から昭和五六年九月二八日まで日歩八銭二厘の割合による遅延損害金六九三万七一〇一円の合計二〇一一万三六六一円の債権を届け出たことは、当事者間に争いがない。

2  次に、被告はジル三協との間で、昭和五一年一一月一日、本件土地につき、極度額三〇〇〇万円の本件根抵当権(二)を設定し、本件根抵当権(一)の仮登記より前の同月一八日、その旨の登記を経由したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すると、被告はジル三協に対し、本件根抵当権(二)の被担保債権として(一)昭和五一年一一月一日、三五〇〇万円を、弁済方法は同月から昭和五六年一〇月まで毎月末日限り二〇万円ずつ、同年一一月から昭和六一年一〇月まで毎月末日限り三〇万円ずつ、同年一一月から昭和六二年八月まで毎月末日限り四五万円ずつ、同年九月末日限り五〇万円を各支払う、利息は年一〇・八五パーセント、遅延損害金は年一八・二五パーセント、ジル三協が右分割金の支払を一回でも怠ったときは当然に期限の利益を失う旨を約して貸し渡し(本件貸金(一))、(二)更に、昭和五三年三月一五日、二〇〇〇万円を、弁済方法は同年一〇月から昭和五六年二月まで毎月末日限り六六万円ずつ、同年三月一四日限り八六万円を各支払う、利息は年七・七パーセント、遅延損害金は年一八・二五パーセント、ジル三協が右分割金の支払を一回でも怠ったときは当然に期限の利益を失う旨を約して貸し渡したこと(本件貸金(二))、しかるにジル三協は本件貸金(一)につき分割金の支払を怠り、遅くとも昭和五四年八月一九日までに期限の利益を喪失したこと(右期限の利益喪失の点は当事者間に争いがない。)、本件根抵当権(二)の元本確定時である昭和五四年一二月二四日において、被告のジル三協に対する同根抵当権の被担保債権のうち残存元本は、本件貸金(一)につき二八〇五万円、本件貸金(二)につき一七三六万円の合計四五四一万円であり、このうち本件貸金(二)について保証協会は、昭和五五年二月七日、残元本一七三六万円及び利息三一万八六一五円に相当する一七六七万八六一五円をジル三協に代わって被告に弁済したので本件貸金(二)はこの時点で消滅し(右代位弁済の事実は当事者間に争いがない。)、同日における被告のジル三協に対する残存債権は本件貸金(一)の残元本二八〇五万円及びこれに対する弁済期の後の日である昭和五四年八月二〇日から昭和五五年二月七日まで年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金二四一万二三〇〇円の合計三〇四六万二三〇〇円となったこと、その後、売却代金交付期日である昭和五六年九月二八日までの間、遅延損害金は増加し、一〇七七万九二五〇円となったので、同日までに届け出た被告の債権は本件貸金(一)の元利金合計で三八八二万九二五〇円となったこと(右届出の事実は当事者間に争いがない。)

以上の事実を認めることができる。

3  なお、保証協会の前記代位弁済の結果、本件根抵当権(二)は右弁済額の限度で保証協会に代位により一部移転し、保証協会は昭和五五年二月八日その旨の根抵当権一部移転登記を経由したこと、しかるに、保証協会が取得したジル三協に対する右求償債権は昭和五六年九月二八日の本件売却代金交付期日までの間に消滅したことは、いずれも当事者間に争いがない。

4  以上認定の事実によれば、本件土地の第一順位の根抵当権者である被告が有する本件根抵当権(二)の被担保債権は、保証協会が被告に一部代位弁済した昭和五五年二月七日の時点において、本件貸金(一)につき残元本二八〇五円、遅延損害金二四一万二三〇〇円の合計三〇四六万二三〇〇円、本件貸金(二)につき残元本一七三六万円、利息三一万八六一五円の合計一七六七万八六一五円であったが、右同日、保証協会が本件貸金(二)の右元利金全額を被告に代位弁済した結果、本件根抵当権(二)の一部が右金額の限度で保証協会に移転したものであるところ、この場合の被告と保証協会との法律関係は、民法五〇二条の規定により、右根抵当権をその有する債権額に応じて準共有するに至ったものと解するのが相当である。しかして、保証協会の右債権はその後本件売却代金交付期日までに消滅したというのであるから、その時点で保証協会の本件根抵当権(二)に対する準共有権も被担保債権の消滅によって消滅し、その結果、被告のみが右根抵当権の極度額三〇〇〇万円の範囲内で他の債権者に優先して売却代金の交付を受け得るに至ったものと解するべきである。しかるときは、本件土地の売却代金三〇〇〇万円から本件競売手続費用五八万三一四七円を控除した残額二九四一万六八五三円は、被告に対し、本件貸金(一)の昭和五六年九月二八日までの遅延損害金として一〇七七万九二五〇円、同貸金の元金のうち一八六三万七六〇三円がそれぞれ交付され、これに劣後する原告への交付額は〇円となるべきものであり、これと同旨の本件計算書は相当であって、右計算書には原告主張のような過誤は存しない。

三  よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河野信夫 裁判官 滝澤孝臣 奥田正昭)

〈以下省略〉

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